自筆証書遺言とは、遺言書を作成する人が、財産目録を除く全文を自筆で書く遺言書です。
自筆証書遺言のメリット
◎自分で気軽に作成でき、書き直すこともできます。
紙とペンさえあれば、いつでもどこでも作成できます。思いついた時やちょっとした空いた時間に自宅で気軽に遺言書を作成できるメリットがあります。
◎費用がかからない
公正証書遺言の場合公証人の手数料等の費用がかかりますが、自筆証書遺言には作成費用がかかりません。
◎遺言の内容を秘密にできる
自筆証書遺言のデメリット
◎要件を満たしていないと無効になってしまう。
◎紛失や死後に相続人が見つけられない恐れがある。
◎書き換えられたり、隠されたりするリスクがある。
自筆証書遺言は法務局で保管可能
自筆証書遺言は基本的に自分で保管する必要がありますが、2020年7月10日から法務局で保管してもらえる「自筆証書遺言書保管制度」が始まりました。この制度によって、遺言書の紛失や隠匿などを防止でき、遺言書を発見してもらいやすくなりました。保管費用は、一律1件3900円です。
なお、一般的に活用される遺言には、自筆証書遺言のほかに、公正証書遺言があります。公正証書遺言は、公証人という法律の専門家が本人の意向を聞きながら作成してくれるものです。費用と手間はかかりますが、書き方の誤りで無効になる恐れがなく、公証役場で預かってもらえるため紛失のリスクが少ないというメリットがあります。
自筆証書遺言の要件、書き方
民法968条に「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない 」と定められています。これらは自筆証書遺言を作成する上で、最低限守らないといけないルールとなります。以下の5点は必ず押さえておきましょう。
◎全文を自筆で書く(財産目録は除く)
タイトルの「遺言書」や本文など、自筆証書遺言では基本的に全文を遺言者が自筆する必要があります。パソコンや代筆は認められていません。ただし、財産目録の部分だけはパソコンを使ったり通帳のコピーをつけたりしてもかまいません。その場合でも添付した書面に遺言者の署名押印が必要です。
◎署名する
遺言書には必ず遺言者の署名押印が必要です。署名も必ず自筆で行いましょう。
◎作成した日付を明記する
遺言書の作成日を記入しましょう。日付は正確に書く必要があり「〇月吉日」などと書いてはなりません。
また、年度の書き忘れをした場合も無効になってしまうので、漏れのないようにしましょう。なお、複数の遺言書がある場合、新しい日付のものが有効となります。
◎印鑑を押す
署名したら押印しなければなりません。押し忘れた場合はもちろんのこと、陰影が不明瞭な場合や消えている場合にも遺言書が無効になってしまう可能性があります。使用する印鑑は認印でもかまいませんが、実印の方が信用性が高く、オススメです。
◎訂正のルール
遺言書の文章訂正方法にも法律が定めるルールがあります。守らないと訂正した部分が無効となり、訂正前の遺言の効力が維持されます。訂正方法について後程ご説明します。
自筆証書遺言の書き方のポイント
◎財産を把握するために必要な書類を集める
遺言書を作成するときには、どのような遺産があるのか把握する必要があります。事前に以下のような財産に関する資料を集めましょう。
・不動産の登記簿(全部事項証明書)
・預貯金通帳、取引明細書
・証券会社やFX会社、仮想通貨交換所における取引資料
・ゴルフ会員権の証書
・生命保険証書
・絵画や骨董品など動産の明細書 など
◎誰に何を相続させるのか明示する
誰にどの遺産を相続させるのか、わかりやすく書きましょう。相続内容があいまいになっているとせっかく遺言書を残してもトラブルのもとになってしまう可能性があります。
例えば「金融資産2千万円を兄弟で半分ずつ相続させ、残りの財産はすべて妻に相続させる」という内容の遺言を書いた場合を考えてみましょう。このような書き方をすると、例えば現金と株の金融資産があるとき、2千万円の分け方が無数に生じるのでトラブルのもとになってしまいます。
遺言を書くときには、長男には「○○銀行○○支店 定期預金 口座番号○○○○」、次男には「A株式会社の株式 数量○○株」などと「どの遺産を、どれだけ相続させるのか」を明確にしておきましょう。
◎財産目録はパソコンで作成可能
遺言書には、どのような遺産があるのかを明らかにするための「財産目録」を作成してつけましょう。財産目録は資産内容と負債内容、合計額を示す「一覧表」です。自筆証書遺言であっても財産目録についてのみ、代筆やパソコンの利用が可能です。また預貯金通帳の写しや不動産全部事項証明書などの資料の添付でも代用できます。ただしパソコンや資料で代用する場合にはすべてのページに署名押印が必要です。
不動産全部事項証明書の「表題部」を引き写し、預貯金については通帳などで支店名や口座番号を確認して間違えないようにしましょう。
◎遺言執行者を指定する
遺言書で遺言執行者を指定しておくと、遺言内容をスムーズに実現できます。信頼できる相続人や弁護士などの専門家を指定しましょう。
◎訂正部分は二重線で消し、印鑑を押す
間違ったときや内容を書き足したいときの「加除訂正」には法律の定めるルールがあります。まず間違った部分を二重線で消し、正しい文言を「吹き出し」を使って書き入れます。
その上で余白部分に「2字を削除、4字加入」などと書いて署名押印します。修正テープを使ったり黒く塗りつぶしたりしてはなりません。署名押印が抜けても遺言書全体が無効になります。
遺言で決められること
遺言書で定められる事項のうち、重要なものは以下の通りです。
● 相続分の指定
● 遺産分割方法の指定
● 相続人以外の受遺者への遺贈
● 寄付
● 一定期間の遺産分割の禁止
● 特別受益の持ち戻し計算免除
● 遺言執行者の指定
● 子どもの認知
● 相続人の廃除
● 生命保険金の受取人変更
自筆証書遺言の注意点
自筆証書遺言を作成する上での注意点や、トラブルを防ぐために知っておいたほうがよいことを紹介します。
◎複数人の共同遺言は無効
遺言書は1人1人が自分の分を作成しなければなりません。共同での遺言は認められていないので注意しましょう(共同遺言の禁止 民法975条)。たとえば夫婦が共同して「私たち夫婦は以下のように遺言します」などとする遺言書を遺しても無効になります。
◎ビデオレターや遺言は無効
遺言書は書面によって作成しなければなりません。ビデオレターや音声の録音では遺言できないので、間違えないようにしてください。
とはいえ、遺言者の気持ちを伝える目的としてはビデオレターなどが有効な手段となります。遺産相続トラブルを防止するために作成する一定の意義はあるといえるでしょう。その場合でも、別途遺言書は作成しておきましょう。
◎「任せる」など、あいまいな表現はしない
あいまいな表現は、解釈を巡って相続人間でトラブルになる恐れがあります。財産を受け継がせたい相手には「取得させる」「相続させる」「遺贈する」などの文言を使いましょう。「任せる」や「託す」と言った言葉では、「管理を頼みたい」との解釈も可能になってしまいます。「渡す」や「譲る」などの表現も避けるのが無難です。
◎遺留分侵害はトラブルの元
相続人には主張すれば最低限はもらえる「遺留分」と呼ばれる権利があります。従って、遺留分を侵害された側は「遺留分に相当する金額を私にください」と主張することができます。「全財産を長男へ」といった、他の相続人の遺留分を侵害する遺言書はトラブルにつながるので、注意が必要です。
◎勝手に開封せず、裁判所で検認を受ける
自筆証書遺言を遺した場合、相続人たちは原則として家庭裁判所で「検認」を受けなければなりません。検認とは、裁判所で遺言書の内容や状態を確認してもらう手続きです。検認を終えなければ遺言書によって不動産の名義の書き換えや預貯金の払い戻しなどを受けられません。ただし、法務局に自筆証書遺言を預けた場合には検認が不要となります。
◎相続開始時までに財産がなくなった場合
遺言書を作成しても、相続開始後までに財産がなくなる場合があります。そういったケースでは、失われた財産に関する遺言が部分的に無効になり、他の部分は有効となります。
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